広辞苑では「音感」の意味は「音に対する感覚。音の高低・音色(ねいろ)などを聴き分ける能力。」とされていますが、一般的には”音の高さ”の聴き分けについて言及する際に音感という言葉が使われることが多いです。
本記事では、絶対音感・相対音感の意味や、音感に関するあれこれについて、記述していきます。
■絶対音感とは?
絶対音感とは「所定の音の高さを、他の音と比較することなく把握できる能力」のことを指します。
“他の音と比較することなく”というのが重要なポイント。例えば、ピアノの鍵盤をランダムに一つ選んで鳴らしたときにその音名がわかる、というようなことです。
(料理に例えると、調味料の種類と量がわかれば、混ぜたときにどんな味になるかわかる、といったところでしょうか。)
■相対音感とは?
一方、相対音感とは「所定の音の高さを、他の基準となる音と比較することで把握できる能力」のことを指します。言い方を変えると「2つの音の高さの距離が把握できる能力」とも言えます。ピアノの鍵盤をランダムに2つ選び、①の音と②の音を聴いて、①の音名がわかれば②もわかる、というようなことです。
(こちらも料理に例えてみると、味見さえすれば目標の味に対してどの調味料がどれくらい足りないかがわかる、といったところです。たぶん。。)
当然、絶対音感であれば、①の音名がわからなくとも②の音名がわかる、ということですね。
■どんな音でもドレミに変換できる?
絶対音感の人は、身近にあるものを叩いたときの音など、日常の生活音の音の高さすらもわかる、というイメージがあると思いますが、そもそもどんな音でもドレミに変換することができるのでしょうか?これについては世間的に誤解されていることが多くあるので、ポイントを順に述べていきます。
音高は無限に存在する(連続的である)
音は物体・物質の振動に起因するものですが、音の高さはその振動の周波数(振動数)で決まります。各音名(ドレミ)の周波数は予め決まっています。
【参考記事】音の高さと周波数 〜基準は440Hz?442Hz?〜
数字の1と2の間に無限に数が存在するように、「ド」と「ド#」のあいだの周波数も無限に存在するため、「ド」と「ド#」のあいだの音高も無限に存在します。つまり、理論的には無限に音の高さが存在することになります。(音の高さは連続的である、というような表現をしたりもします。)
ギタリストなら誰でもわかると思いますが、例えばチューニングでペグを回すとき、半音のあいだもなだらかに音高が変わっていきますよね。無限に音の高さが存在するというのは、そういうことです。
結論として、、
どんな音でもドレミの12音に変換することができるわけではないのですが、「この音はラの音に近い」「この音はミとファのあいだくらい」などということはできる、ということですね。
打楽器の音高は?
先ほど「音の高さはその振動の周波数で決まる」と端的に記述しましたが、実際はもっと複雑です。
実際の音は、単一の周波数成分のみから成る場合はほとんどなく、あらゆる周波数成分が入り混じっていたり、一定の周期を持たないものがあったりします。一定の周期を持つ音ははっきりした音の高さが感じられますが、一定の周期を持たない音は音の高さを明確に特定することはできません。
弦楽器や鍵盤楽器のように音階のある楽器では、当然特定の音高がはっきりと聴こえるように設計されているわけですが、打楽器やあらゆる日常の生活音は、特定の音高が聴こえにくいことが多いです。(むしろ打楽器がはっきりとした音高を示すものばかりで構成されていると、協和、不協和が生まれるため、打楽器という役割上適切ではない場合もありそうですね。)
よって、あらゆる日常の生活音の音高を表現することは難しいわけですが、場合によっては個々人の感覚でどの音に近いかを語ることができる場合もあるのかなと思います。特に音感に優れている方は、常人には理解できないような感覚を持っていますし、音感の正確さや癖などは人それぞれなので、いろいろな意見が出ることがあって当然なのかもしれません。
■いろいろな音感
音感は、絶対音感寄りの人と相対音感寄りの人がいたり、聴こえ方に癖を持っていたり、人それぞれに特色があります。それらの具体例をいくつか紹介してみます。
例:ピアノだと音高がわかりやすいが管楽器だと難しい。
→楽器の音色によって得意不得意があるパターン。歌声だと正しいキーがわからなくなる、という話も聞いたことがあります。例:聴き取りにくい音域がある
→低すぎる音、高すぎる音がわかりにくいのはほとんどの人に共通していそうです。例:和音の中のトップノート(最も高い音)は聴き取りやすい。
→これも多くの人が持っている感覚かもしれません。例:半音差の判別が苦手
→という人もいるようです。階名を読むとき♯や♭を省略する慣習があることが要因なのかもしれません。
■絶対音感を持つの人の割合は?
絶対音感を持つ人の割合は、調査によって0.001%(10万人に1人)以下というものから3%程度というものまでありますが、明確な結論を出すのは難しそうです。その主な理由は、絶対音感の定義が難しいこと、そしてその絶対音感の調査方法を設けるのが難しいことです。
ここまでの記事を読んでいただくと音感についてのイメージがなんとなく掴めたかと思いますが、音感は単純に良いか悪いか二分できるようなものではなく、その良し悪しはグラデーションです。また、人によって特殊な傾向を持っていたりもするので、統一的な音感の評価手法を定めるのは容易ではなさそうです。
以下に絶対音感をチェックする方法として、不適切なものを紹介してみます。よくありがちなことですが、絶対音感のテストの難しさを理解できると思います。
■誤った絶対音感テスト方法
絶対音感のテストとして不適切な定番例を紹介します。
手順①:鍵盤の中から1音がランダムに選ばれ、その音が鳴る。
手順②:その音名が何であったか答え合わせをする。
※①②を繰り返す。
上記の方法の場合、1周目の②で答え合わせをしてしまうと、2周目以降はその1周目の音を基準に推測することができてしまいます。絶対音感を持っていなくても、正確な相対音感を持つ人は正答できる内容になりますね。よって、絶対音感の調査方法として適切ではないことになります。
■絶対音感と相対音感のどっちがすごい?
絶対音感を持つ人の割合については前述しましたが、相対音感を持つ人の割合は絶対音感の割合より多いでしょう。カラオケのキーコントロール機能でキーを変更しても問題なく歌える方が多いように、多くの方にある程度相対的に音を捉えられる能力が備わっていると考えてよいのかなと思います。(もちろんそれが相対音感を持つことと同義だとは思いませんが。)
希少価値という意味では絶対音感の方がレア人材と言えるでしょう。しかし、それぞれに一長一短はあるので、単純な良し悪しは語れないのかもしれません。