PAN(パン)とは? 〜音源の空間再現〜

今回は音楽用語の「PAN(パン)」について解説していきたいと思います。音源制作の過程で必ず関わるものなので、音源制作を行う人は把握しておきましょう。

■PANとは?

PAN(パン)とは、複数のチャンネルを持つ音声出力において、音の定位を変化させる機能を指します。(音の定位とは、音源(音を発しているもの)の位置のことであり、音が聴こえてくる方向や距離感を示します。)

最も一般的な音楽再生方式であるステレオでは、LRの2つのチャンネルを持ちます。PANによりLRの音量比を変化させることで、聴き手には音源の位置が本来にはない方向から聴こえます。

すなわちPANは、LRどの方向から聞こえるかを設定する機能です。

「ギターはLRのL側(左側)から聴こえる」
「ボーカルは正面から聴こえる」

などのようなことを表現できます。

例えば、ギターの録音トラックのPANをL側に設定することで、ギターの音はR側よりL側の音量の方が大きくなり、あたかもギタリストがやや左側に存在するような印象を与えることができるわけですね。

通常、音源制作においては、録音した各トラックに対してPAN設定をし、全体のバランスを整えるように設定します。

■PANの名前の由来

PANは英語であり、panorama(パノラマ)に由来しています。panoramaは広範囲の風景を意味し、一般的な縦横比ではない横長(または縦長)の写真をパノラマ写真と呼ぶことがあります。

左右広範囲に各トラックの音の位置を設定することができる雰囲気は、パノラマ写真に重ねられますね。

■PANの効果

PANの設定を活用することで音源がより立体的に聴こえたり、各トラックの音の分離して聴きやすくなったり、という効果があります。

ステレオ音源を例にするとPANを設定しないデフォルトの状態は、すべてのトラックが中央(正面)から聴こえるような雰囲気になります。3トラック以上で構成される場合は、PANをLRに振るなんらかの操作がなされる場合がほとんどです。

以下、実際の音源でPANの効果を確認してみましょう。

PAN活用例①

PAN設定の聴き比べ

音源では2本のギターが収録されていますが、PANの設定を変えた2つの音源の交互に再生しています。ヘッドホン、イヤホン等でお聴きください。それぞれ以下のようにPAN設定されています。

パターン①:
2本のギターのPANをセンターに配置したバージョンです。聴こえる音の左右の差がなく均一となっている代わりに、各トラックが分離して聴こえにくく、少し混み合った印象を受けると思います。

パターン②:
2本のギターのPANをLとRに振り分けているバージョンです。各トラックが分離良く聴こえ、全体としてすっきりとした印象になり、空間的な広がりを感じる音源になっていると思います。

後述しますが、ギターなどのウワモノ系と呼ばれる楽器が複数ある場合は、パターン②のようにPANをセンターに置かずに、LRのどちらかに寄せるのが一般的です。

PAN活用例②

カラス/田端悠

0:24あたりから連続して小刻みに音を鳴らすトレモロ奏法がありますが、少しずつPANの位置をずらし、カラスが弧を描くように飛んでいく雰囲気を演出しています。こちらもヘッドホン、イヤホン等でお聴きください。

PANの設定は、活用例①のようにトラックごとの兼ね合いを考えたものだけでなく、活用例②のように空間的なを演出をすることもあります。

■PANの定番設定

以下、各楽器ごとのPANの定番の設定について記述します。

ボーカル

ボーカルはセンターに置くのが基本です。

ギター、キーボード

ギターやキーボードといったウワモノ系の楽器はLRのどちらかに寄せます。ギターを2本録る場合は、LRで分けるのが基本です。ただし弾き語りの音源などで、ギターが1本の場合などはセンターに置かれるケースもあります。

ベース

ベースは競合する周波数帯域が少なく、センターに置くのが基本。LRに寄せると音量感のLRバランスが崩れやすくなります。

ドラム

ドラムは各部ごとにPANの位置を設定します。バスドラム、スネアはセンターに置くのが基本で、その他は細かくPAN設定がされるのが一般的です。ドラムセットを正面から見た時に、その位置関係が再現されるようなPAN設定となっていることが多いです。例えば、ハイタム、ロータム、フロアタム、が存在する場合は、

(L)フロアタム/ロータム/ハイタム(R)

といったような相対位置関係になります。