「All My Loving」は、赤盤(1962-1966)[Disc1]のTrack6収録曲。三連符のバッキングが特徴的です。興味深いポイントが多数あるので、一つずつ触れてみたいと思います。
【YouTube】All My Loving/The Beatles
■展開
A→A→B→間奏→A→B→B’
展開は上記のような流れ。
セクションの数も少なく非常に短い曲ですね。
■Key
KeyはEメジャーキー。
転調はなく、それほど難解な部分はありません。
■コードワーク
Aメロ
Aメロは以下のような進行。
Aメロ:
|F#m|B|E|C#m|A|F#m|D|B7|
度数表記では、
|IIm|V|I|VIm|IV|IIm|♭VII|V7|
2516と言われるツーファイブ型から入る進行です。
♭Ⅶコードはブルース感のある楽曲ではよく使用されますが、この部分は自然なメロディの中で使用されています。
♭Ⅶコードの構成音は、短7度、長2度、完全4度。ブルース感の強い曲ではナチュラルスケール上にない短7度の音がメロディの中で強調されていることが多いですが、この曲ではメロディに短7度が現れることなく♭Ⅶコードとなっていることが特徴です。ちなみに♭Ⅶコードにコードチェンジした瞬間のメロディは長2度の音になっています。
このAメロのメロディに対して自然なコードを選ぶと、一例としては、
|F#m|B|E|C#m|A|F#m|B7|B7|
という感じでしょうか?
原曲のように7小説目をD(♭Ⅶコード)としているのは、バッキングに一工夫したアレンジと言えそうです。
Bメロ
Bメロはシンプルですが非常にユニークな進行です。以下のような進行。
Bメロ:
|C#m|C#mM7/C|E|E|×2
度数表記では、
|Ⅵm|ⅥmM7/#Ⅴ|I|I|×2
Ⅵm→ⅥmM7/#Ⅴという流れは、いわゆるクリシェと呼ばれる定番の進行の入り方。要はベースのみを半音ずつ下げるような雰囲気の進行です。
その後一般的には、
Ⅵm→ⅥmM7/#Ⅴ→Ⅵm7/Ⅴ
という進行を予感させるものですが、実際にはベースがⅤまで下がらず、Ⅰコードに戻して完結させます。このクリシェを途中で止めるような進行は意外と現在のJPOPなどではあまり見られません。予想を裏切られたようにさえ感じ、ユニークな進行に映るかもしれません。
フィナーレ
冒頭の展開でB’としているフィナーレ部分は以下のような進行。
B’メロ:
|C#m|C#m|E|E|C#m|C#m|E|E|
度数表記では、
|Ⅵm|Ⅵm|I|I|Ⅵm|Ⅵm|I|I|
Ⅰコードはハイポジションになり、少し明るい印象を受けます。ハイポジションとローポジションでのコードは、仮に同じストロークであってもコードの雰囲気に差を感じます。
■その他のポイント
三連符のバッキング
Aメロはバッキングのギターが三連で刻んでおり、Bメロではまた異なるパターンに変化します。バッキングのリズムパターンだけで展開を強く感じられます。ビートルズの中でも割と奇抜な1曲かもしれません。
ウォーキングベース
ギターはリズムパターンがセクションごとに変わるのが特徴的ですが、ベースに関してはウォーキングベースが採用されており、こちらも楽曲の印象に強く貢献しているような印象を受けます。
6度音程を使ったギターソロ
間奏では、6度音程の音で構成されたソロが入っています。主旋律的な音に対して、その6度下の音を重ねるようなイメージです。多くの場合、4弦+6弦というように、弦が1つ飛ばしで使われます。あらゆる場面で出現する奏法であり、アレンジの引き出しとして便利なので、ぜひ覚えておくと良いと思います。
コーラスアレンジ
1番Aメロはボーカルに対してユニゾンですが、2番Aメロでは上ハモとなっています。1コーラス目と2コーラス目のアレンジの変化はいろんなパターンがありますが、この曲ではコーラスワークで展開をつくっています。
PAN(パン)
PANとは音の左右の定位のことです。要はステレオ音源においてギターがLR(左右)のどちらから、どの方向から聴こえるか、といったようなこと。
この曲ではボーカルのPANがR側に振ってあり、その他のギター、ベースやドラムなどの大半はL側に振られています。現代はPAN設定のセオリーが確立されています。この曲はそんな現代の主流とは大きく異なっていますが、当時はいろいろな試行錯誤があったのかなと想像します。
押韻
英詞に関してはあまり深掘りするつもりはありませんが、本曲ではAメロの韻を意図的に踏んでいますね。