この記事では音律について解説したいと思いますが、以下の記事は音律に深く関係します。是非ご参考に。
【記事】音の高さと周波数 〜基準は440Hz?442Hz?〜
【記事】倍音とは? 〜楽器や声の音色に関わる音成分〜
【記事】音のうなりとは? 〜周波数の差が生む音の干渉〜
【記事】セントとは? 〜音程の単位〜
以下、音律について解説していきます。
■音律とは?
音律とは、音楽に用いる音の高さを相対関係を取り決めたものです。
ざっくりの音律のイメージとしては、
「ド」の音をある音の高さに決めたとき「ミ」の音はこの高さにしよう、というような感じですね。本来は音の高さは無限に存在するので、各音名の音の高さを規定する必要があります。
また、音の高さは音の周波数によって決まるため、大まかには、音律は各音名の周波数の取り決め方と捉えていてよいでしょう。
音律の代表的なものに純正律、平均律があります。以下、それぞれの違いや特徴について記述していきます。
■純正律について
特徴
純正律は15世紀頃から使用されている音律です。現在、純正律の音律を実際に使用することはあまりないと思いますが、最近では純正律設定が可能な電子楽器やチューナーも出てきているようですね。
純正律の特徴を簡単にまとめると以下のようになります。
ある基準となる音とその他の音の周波数比が簡単な整数比になるように各音が定義される。
メリット:
うなりによる音の濁りが生じにくく、ハーモニーに優れる。
デメリット:
キーが変更されたとき、純正律音程から外れるため、移調や転調に弱く、利便性に欠ける。
規定方法
純正律では以下のように周波数比を定義し、各音の周波数を決めます。
・完全5度… 2:3(完全1度の3/2倍)
・長3度… 4:5(完全1度の5/4倍)
なお、完全8度(1オクターブ上)は周波数2倍として扱います。これらにより、基準音とその他の音の周波数比を簡単な整数比にすることができ、うなりの発生を抑えています。これが純正律の大きなメリットになります。うなりについては以下の記事をご参考に。
このように定義することで、それぞれの半音間隔が完全に均等にはなっておらず、わずかにズレが生じます。
すなわち純正律における半音間隔の音程は、100セントちょうどにはなっておらず、100セントより大きいものも小さいものも存在することになります。
また、原理的には基準音はどの音にすることも可能で、CメジャーキーであればCを基準音に、DメジャーキーであればDを基準音にすることができますが、いずれの場合も転調などを含む曲では純正律が崩れることになり、キーの異なる曲ごとに調律が必要になるため、常に純正律の音階を扱うというのはあまり現実的ではありません。
Cを基準としたときの各音の周波数比
Cを基準音にして、純正律で各音の周波数比を求めると以下のようになります。
D♭… 4/5×2/3×2= 16/15(Cの長3度下の完全5度下のオクターブ上)
D… 3/2×3/2×1/2= 9/8(Gの完全5度上のオクターブ下)
E♭… 3/2×4/5=6/5(Gの長3度下)
E… 5/4(Cの長3度上)
F… 2/3×2= 4/3(Cの完全5度下のオクターブ上)
G♭… 3/2×3/2×5/4×1/2= 45/32(Gの完全5度上の長3度のオクターブ下)
G… 3/2(Cの完全5度上)
A♭… 4/5×2= 8/5(Cの長3度下のオクターブ上)
A… 4/3×5/4= 5/3(Fの長3度上)
B♭… 4/3×2/3×2= 16/9(Fの完全5度下のオクターブ上)
B… 3/2×5/4= 15/8(Gの長3度上)
ちなみに、この純正律の周波数比率だと、3和音ダイアトニックコードの中でⅡmだけが、純正律の規則(完全5度の周波数比2:3、長3度の周波数比4:5)を満たせません。
つまり上記のようにCを基準とした純正律では、Dmの構成音であるDとAの比が5/4にならない、ということです。ダイアトニックコードを純正で網羅することはできないようです。
■平均律について
特徴
平均律は主に16,17世紀以降から使用されていると言われており、現代で一般的に使われている音律はこの平均律です。平均律の特徴を簡単にまとめると以下のようになります。
オクターブ内の12音を、均等な周波数比で12分割して定義される。
メリット:
キーごとの特異性がなく、移調や転調に強い。フレット楽器と相性が良く、利便性が高い。
デメリット:
純正律と比較してうなりによる音の濁りが生じやすく、ハーモニーの点で劣る。
規定方法
平均律では、オクターブ内の12音を均等な周波数比で分割します。1オクターブ上は周波数が2倍なので、半音上がるごとに周波数が2の12乗根倍(約1.0595倍)されることになります。
こちらは半音間隔の音程が100セントとして定義されます。
弦楽器は、弦の振動部分の長さを変えることで音の高さを変えます。ギターのようフレット楽器では、その振動部分の長さはフレットの位置で決められるわけですが、各弦のフレット位置がすべて等しい位置にあり、これは平均律の考え方を反映していると言えます。
このように平均律の大きなメリット扱いやすい点にあります。
Cを基準としたときの各音の周波数比
平均律における各音の周波数比は、基準音から半音上がるにつれて、2の12乗根を掛け合わせていきます。
D♭… 2^(1/12)≒ 1.0595
D… 2^(2/12)≒ 1.1225
E♭… 2^(3/12)≒ 1.1892
E… 2^(4/12)≒ 1.2599
F… 2^(5/12)≒ 1.3348
G♭… 2^(6/12)≒ 1.4142
G… 2^(7/12)≒ 1.4983
A♭… 2^(8/12)≒ 1.5874
A… 2^(9/12)≒ 1.6818
B♭… 2^(10/12)≒ 1.7818
B… 2^(11/12)≒ 1.8877
■ピタゴラス音律
ここではもう一つ、ピタゴラス音律についても紹介してみます。
ピタゴラス音律は紀元前から使用されている、純正律や平均律よりも古くからある先駆的な音律で、その名の通りにピタゴラスが作った音律です。
規定方法
ピタゴラス音律は、完全5度音程は周波数比を2:3として各音の周波数を決めるシンプルな規定であり、部分的には純正律と同じようになっていますね。
基準音から、完全5度上、完全5度下を追いかけるように各音の周波数を決めていきます。
例えばCを基準とし、完全5度上を順に追いかけていくと、G、D、A、E、B、F♯の順に音が決まります。
また、Cを基準に完全5度下を追いかけていくと、F、B♭、E♭、A♭、D♭、G♭、となります。
Cを基準としたときの各音の周波数比
前述した通り、完全5度音程を周波数比2:3として、基準音から完全5度上、完全5度下を追いかけるように各音の周波数を決めていきます。
これらに加えて、必要に応じてオクターブの調整を行います。例えば、完全5度上の完全5度上となると、記事音から1オクターブ以上離れているため、周波数に1/2を掛けて1オクターブ下に補正します。
G… 3/2(Cの完全5度上)
D… 3/2×3/2×1/2= 9/8(Gの完全5度上のオクターブ下)
A… 9/8×3/2= 27/16(Dの完全5度上)
E… 27/16×3/2×1/2=81/64(Aの完全5度上のオクターブ下)
B… 81/64×3/2= 243/128(Eの完全5度上)
F♯… 243/128×3/2×1/2=729/512(Bの完全5度上のオクターブ下)
B♭… 2/3×2/3×2×2= 16/9(Fの完全5度下のオクターブ上)
E♭… 16/9×2/3= 32/27(B♭の完全5度下)
A♭… 32/27×2/3×2= 128/81(E♭の完全5度下のオクターブ上)
D♭… 128/81×2/3= 256/243(A♭の完全5度下)
G♭… 256/243×2/3×2= 1024/729(D♭の完全5度下のオクターブ上)
純正律の結果と比較すると、部分的に同じになっていることがわかるかと思います。
F♯とG♭は異名同音であり、平均律においては同じ周波数を持ちますが、この音階の作り方では微妙な差が生まれます。この誤差はピタゴラスコンマなどと呼ばれています。